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ハーバリストが主役の国産ファンタジー『時の竜と水の指輪』

アロマテラピー検定の勉強をしていて、子供のころ読んだ物語を思い出しました。

ハーブを使った治療を行う薬師・ハーバリストの少女が主役の国産ファンタジー、樹川さとみ『時の竜と水の指輪』です。

「オオバコと、ニガヨモギ・・・それとセイバリーー・・・うん、全部そろってる」

 籠の中には摘んだばかりの薬草が入っている。アイリはちょっと考えて、それにヒヨスを追加した。

 至急その麻酔薬を使う・・・といった予定はなかったが、予備が少なくなっていることにふと思い至ったからだ。

樹川さとみ『時の竜と水の指輪(前)』より)

 

1994年刊行。作品少女小説レーベルのコバルト文庫の作品ですが、ハーブに興味がある人でも、知っている人はあんまりいないかな。なんせ少女向けですので(笑)

少女小説やライトノベルは、いい作品があってもなかなか残りにくいですね。評論家はあまり読まないし、雑誌の様にすぐ絶版になるのがふつうなので。もったいないです。

1980年に、少女マンガ雑誌「なかよし」で、ポプリマンガ『あこがれ♡二重奏』の連載が開始され、ポプリブームが起こりました。それからハーブやアロマの本が色々刊行されていますので、『時の竜と水の指輪』執筆当時、十分ハーブ関係の資料はあったと思います。でもハーバリストを主人公にしようという発想は、かなり珍しいですね。

ハーブについて、本格的に調べて書かれている模様。ハーブを使った治療や、衣装箱に入れるハーブのサシェなど、生活や治療でハーブが何度もえがかれています。

 

主人公は、深い森の中でひとり暮らす少女アイリ。男しかなることのできない、ノーマ・カーの森の薬師の仕事を継ぐため、死んだ兄アインになり替わって、孤独に暮らしています。

そんな彼女のもとに、嵐の夜にやってきたのが、騎士ク・オルティス。闇討ちの傷で意識不明の従者の治療のため、オルティスはさらうようにアイリを領地に連れていくのだが・・・

清楚でおとなしく、孤独で一途な男装の少女アイリと、強くて不器用で笑顔がかわいいハンサム騎士ク・オルティスの純愛物語。ほんと、ピュアです(笑)

 

貴族の治療は修道院の僧侶が行っている、という描写があるので、中世・修道院医学の時代のお話のようです(アロマテラピー検定で出ました~)騎士と決闘と貴婦人の時代ですね。

おそらく、物語の舞台のモデルはアイルランド。(イギリスかなとも思いましたが、登場人物の名前が「ク・オルティス」「トルザ・オー」「コルビナ・ディエノ」と英語名じゃないので)

主人公のアイリは滅びゆく被征服民の、知識と血を受け継ぐ最後の一人です。アイリの一族のモデルはおそらくケルト民族で、アイリは薬草と呪術を受け継ぐ最後のドルイド神官。ケルトのドルイド神官は、深い薬草の知識を持っていたといわれています。

中世ヨーロッパの夏至祭の雅歌が引用されていたり、物語の途中で物語世界の歴史書がはさまれていたりと、なんだかなつかしい感じのまじめなファンタジー。このころのコバルト文庫は、正統派ファンタジーの全盛期ですね。

幻想的であり、呪われた運命と滅びの思い出の話であり、なぜか少しギャグ要素があるという変わった作品。

 

〈エネアドの3つの枝〉 シリーズ3作目「最後の封印」でも、妖精王の血を引く治療師の少女が主人公。ケルト文化がベースになった物語で、ハーブもいろいろ出てきます。

1巻は子供向けですが、2,3巻は大人が読んでもおもしろいです。

樹川さんは最近作品を発表されていないようですが、ぜひ大人向けのファンタジーを執筆してほしいです。ここまで当時の生活描写を細かく書ける人ってあんまりいない。『時の竜と水の指輪』も、ハーブの描写を増やしてリライトしたら、絶対売れると思うんだけどなぁ。