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アロマ&ハーブ、ボディワーク、アトピー性皮膚炎の情報など

ニコラス・カルペパーと当時の医者と薬剤師たち

ひさしぶりに、ハーブの歴史の話でもしましょう。ジョン・ジェラード、ジョン・パーキンソンと書いたので、アロマテラピー検定に出てくるハーバリストは、あとニコラス・カルペパー(Nicholas Culpeper 、1616 – 1654) ですね。

日本語の情報がほとんどなかった2人のジョンと比べて、ハーブと占星術のコラボという、占い好き・オルタナ好きな女性の心を打ちぬく仕事で有名なカルペパーは、日本語の情報もけっこうあります。

カルペパーという人 ←生涯がまとめられています。ドラマにできそうな人生です。正義感が強く、反骨心の塊みたいな性格の上、浪費もすごかったらしい。前半生はこんな感じです。

  • ケンブリッジ大学で放蕩三昧
  • 父の遺産を使い果たして、親戚の援助で牧師を目指す
  • 駆け落ち結婚しようとするが、その途中に恋人が落雷で死亡
  • 精神的ショックで神経衰弱、牧師になることを拒み援助を打ち切られる
  • 無一文から心機一転、薬種問屋で徒弟奉公、薬の知識を深める
  • お金持ちの未亡人と結婚し、薬種問屋を開業。赤ひげ先生な治療方針で人気に

 激しい人生だな・・・

ネットだと、占星術研究家の鏡リュウジ氏の文章がわかりやすかったです。医療と占星術の関係も説明されています。

鏡リュウジのマジカルミステリーツアー 第5回アロマ

 

日本語の本もあります。こちらは評伝。ちょっと直訳すぎますが、よくこんなテーマの本を出版できたなぁと思います。占星術人気おそるべし。

本草家カルペパー―ハーブを広めた先駆者の闘い

本草家カルペパー―ハーブを広めた先駆者の闘い

 

 

もう一冊あります。この本は今月発売されたようです。

まだ読んでないけど、ものすごく濃いんだろうなぁ(笑)高いけどしょうがないですね。おもしろそう。

 

カルペパーは、占星術とハーブ療法のコラボという、現代から見ると非科学的な治療法で知られています。

「ハーブ療法が非科学的に見られるのはカルペパーのせい。せっかく有効なハーブもうさんくさく思われてしまう。その罪は重い」

と言われることもあれば、

「薬の有効成分だけに目が行きがちな、現在の科学療法とは違う。人間と治療の関係を全体的・宇宙的にとらえさせてくれる。人間らしい、今こそ必要な叡智」

と称賛されたりもします。賛否両論ですね。

 

無免許のハーブ療法家だったカルペパーは、1649年に「ロンドン薬局方」をラテン語から英語に訳して「A Physical Directory, or a Translation of the London Directory (医療指針集) 」として出版し、1652年に家庭向けの医学書「The English Physitian (英語で書かれた療法)」を出版しました。

当時、医師会が出版した「ロンドン薬局方」の知識は、医者(内科医)が独占していました。薬剤師は「ロンドン薬局方」に沿って薬を処方しなければならず、そうしないと罰せられたのですが、「ロンドン薬局方」の詳細は、薬剤師にも公開されていませんでした。

当時の医師たちは、薬剤師にたいして「医者に従わせるべき。知識を与えてはいけない」という方針でした。なので、「ロンドン薬局方」を英訳し、家庭向けに医学書を書いた、うさんくさい経歴のカルペパーは、当然ながら医師たちの激しい怒りを買ったのです。逆に薬剤師たちは、「ロンドン薬局方」を読めるようになったことで、自信を持って医者に対峙するようになりました。

「The English Physitian (英語で書かれた療法)」は高い本ではなかったので、医者にかかることのできない庶民の間で爆発的に流行しました。この本があれば、医者を通さず直接薬を買いに行ったり、身近にあるハーブを使えばよかったからです。

『英語で書かれた療法』、通称『カルペパーの本草大全』を書くことによって彼は、大衆の知る権利を確立した。彼は初めて医学知識を、広く大衆の手の届くものにした。大衆の知識欲は無尽蔵であるのがわかった。『英語で書かれた療法』の幾つもの新しい版が、さまざま題で、さまざまな形で、十八世紀の初めから二十世紀の終わりまで、ほとんど十年ごとに出版された。(中略)植民地のアメリカでもっとも人気のある医学書の一つになった。

 

ちなみに、イギリス本草書ブームで本が出た順番は、以下の通り。

  • 1551 ウィリアム・ターナー『A new herball(新本草書)』
  • 1578 ドドエンス『Cruydeboeck(クリュードベック)』が英訳される
  • 1597 ジョン・ジェラード『the Herbal or General Historie of Plants(本草あるいは一般の植物誌 / 本草書~植物の話~』
  • 1629 ジョン・パーキンソン『Paradisi in Sole Paradisus Terrestris(日のあたる楽園 地上の楽園)』
  • 1633 ジョン・ジェラード、トーマス・ジョンソン改訂版『the Herbal or General Historie of Plants』
  • 1640 ジョン・パーキンソン『Theatrum Botanicum(広範囲の本草学書 / 植物の劇場)』
  • 1649 ニコラス・カルペッパー「ロンドン薬局方」を英訳
  • 1652 ニコラス・カルペッパー『the English Physitian(英語で書かれた療法)』

ハーブ療法に占星術的視点を取り入れたのは、カルペパーが最初だと思っている人もいるみたいですが、もともと、ヨーロッパの大学の医学部の講義には占星術もあり、れっきとした医学の一部でした。

そのあたりについて、またちょっと書こうと思います。